2020年05月11日
敬う心
じゅずつなぎコラム

事業プロデューサー / 大阪芸術大学 デザイン学科 講師
山本あつし
大阪生まれの僕が、奈良に引越したのは中学2年生の冬でした。大学時代は京都に、就職してからは東京や大阪に住んでいたこともあり、改めて腰を据え、ここに暮らし始めたのはまだ10年ほど前のことです。子どもの頃はただ単に「何もないまちだなあ」と退屈に感じていたものですが、この古いまちでの暮らしや仕事を通してその奥深さに触れ、日々たくさんのことを学ばせてもらっているのだなあと、じわじわ感じるようになってきました。

例えば、世界遺産「古都奈良の文化財」のひとつでもある春日大社。こちらは奈良時代に、平城京の守護と国民の繁栄を祈願するため、藤原氏が創建した神社。ここへ行く度に感動してしまうのが、その鮮やかな朱色に彩られた回廊です。

藤原氏の招請により鹿島神宮からやってきた、武甕槌命(タケミカヅチノミコト)が降り立ったとされる御蓋(みかさ)山。回廊の東側は、その斜面に沿ってなだらかにせり上がるように建てられています。
はじめてここを訪れたとき、驚いたのは屋根を支える無数の垂木(たるき)でした。ふつうの建物の垂木の断面は、正方形や長方形をしています。しかしこの回廊のそれは、一定ではない斜面の傾きに合わせるため、ひとつひとつ微妙に形の違う平行四辺形になっているのです。

高性能で便利な機械などない時代、当時の大工たちはその一本一本を手作業で削りだし、丁寧に加工したのです。さぞ面倒で、手間のかかる仕事だったことでしょう。しかし誇り高く、神南備(かむなび)に寄り添いながら仕事に取り組むことで、神様への畏敬の念を表現したのだと思います。その結果、現代においても驚くべき高い加工技術を培うことになったのです。それは自然と対峙するのではなく、自らをその一部と捉えながら、賢くしなやかに生きていくための知恵でした。
効率性や経済性を何より優先する現代の日本でこれを実践するのは、なかなか難しいことのようにも感じます。しかし先の見えない今だからこそ、もう一度「敬う心」を取り戻すことが必要で、そこから新しい時代を生きていく力を得られるのではないか。春日大社にお参りするたび、強くそう思うのです。

ああ、奈良っていいなあ。
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奈良で学生時代を過ごしました。年に2~3回行きますが若いときの楽しかったことが思い出されて私も「ああ、奈良っていいなあ」と思います。