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2020年11月16日

「あきらめる」の本当の意味

じゅずつなぎコラム

事業プロデューサー / 大阪芸術大学 デザイン学科 講師
山本あつし

「あきらめる」という言葉が好き...と言うと、ちょっと変わった人と思われるかもしれません。今回は、僕が16年前に自宅を建てたことに始まる3つの「あきらめる」と、それによってその後の人生が変わったというお話をしようと思います。

1つ目の「あきらめる」は、自分で設計するのをあきらめたこと。当時、建物の設計・施工に従事していた僕は、親のすすめから郊外の土地を購入し、そこに自分で設計した家を建て、自宅兼モデルハウスにしようと考えていました。しかし仕事が忙しくてなかなか実現せず、それから2、3年経って、結婚もして、いよいよ建てなければ...となった頃、思い切って別の人に設計を依頼する決断をしたのです。すると運よく、自分の考えを一緒に形にしてくれる若い建築家と出会うことができたのでした。彼とはその後も一緒に仕事をしたり、今でも何かあったら相談できるような気のおけない間柄ですが、こんなご縁をいただけたのも、あの「あきらめる」があったからに他ならないと感じています。

2つ目の「あきらめる」は、大きな家を建てるのをあきらめたこと。僕が購入した敷地は住宅地で規制が厳しく、建ぺい率(敷地面積に占める建築面積の割合)が40%に設定されていました。しかも、建物の外壁を敷地境界線から1.5m以上あけてつくらなければならないという条件のおまけ付き。納得して購入したものの、せっかく長いローンを組んで手に入れた土地なのに、いざ建てるとなると敷地いっぱいに建てられないのは何とももったいない!と気落ちしていたのですが、あるとき発想を転換して「土地つき一戸建て」ならぬ「一戸建てつき庭」を家づくりのコンセプトとすることに。敷地いっぱいにウッドデッキをつくり、建物一階の四方をガラス張りにして、家の中にいてもまるで外にいるような開放的なつくりにしました。おかげで裏山を借景に、敷地以上の広がりを感じる家になったのです。困った時には、欠点を長所と捉えてみる。その考え方は、今でも自分の強みにもなっています。

3つ目の「あきらめる」は、建物をつくること自体をあきらめたこと。先にも書いたように、この家にはモデルハウスとしての役割もあり、数ヶ月に一度、お客様を迎える「オープンハウス」を開催していました。実際に建てたものを見てもらうことで、住宅や店舗の設計・施工の受注につなげていったのです。ところが家を建てた数年後、あのリーマン・ショックに端を発する世界的な金融危機が起こり、その影響から、一時は120万戸を超えていた新築住宅着工戸数は一気に70万戸台まで落ち込んでしまいます。業者間の競争も年々激化していく中、物質的豊さから精神的豊かさの時代への本格的なシフトを感じた僕は、ただ建物という容れものをつくるのではなく、その中身であるライフスタイルの提案を仕事にしたいと考えるようになりました。

そこから生まれたのが「美術館に住む」というテーマでした。「住」という字は「人が主」と書く。それならまずはこの家の主である僕たちが、好きなアートに囲まれて暮らすことから実現してみようと考え、友人であるアーティストの展覧会をオープンハウスと同時開催することを思いつき、すぐに行動に移したのでした。するとおもしろいことに、僕の招いたお客様とアーティストが招いたお客様が勝手に交流を始め、さらに近所の人たちも加わって、どんどんその輪が広がっていくのを目の当たりにしたのです。「人が主」になると、それまではなかった新たな繋がりを生みだすことができる。そう気づいたことがきっかけとなり、2010年に僕たちは古都・奈良の中心市街地にある商店街に小さなカフェを開きます。そこでたくさんの展覧会やイベントの制作を手掛けていくのですが、気がつけばそれからもう10年が経ち、いろんなご縁にも助けられ、今では家という枠を大きく飛び越え、まちのあらゆる物事のプロデュースをさせていただけるようになりました。

今回は少し長い話になってしまいましたが、この3つの「あきらめる」があったからこそ、僕は今の自分があるということをお伝えしたいと思いました。世間一般の認識として、「あきらめる」はマイナスの要素が強い言葉とされているようです。実際、僕自身も子どもの頃から「あきらめたら負けだ」「あきらめてはいけない」などと言われて育ちました。しかし「あきらめる」とは、もとは仏教用語で「あきらかにする」「つまびらかにする」という意味なのだそう。背伸びしたり、欲張ったりせず、ありのままの自分自身をあきらかにすることで、物事の道理や本質が見えてくる。「諦観」とは、まさしくこのことなのでしょう。まずは自分が何を持っているのか、あるいは持っていないのかをあきらかにする。そしてそのすべてをしっかり受け止め、持っているものをどのようにいかしていくのかを考えてみる。「あきらめる」をそんなふうに考えると、少し肩の力が抜けて楽になり、新しい生き方が見えてくるはずです。

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コンテンツへのコメント

  • 2020年11月30日 11:43
  • さっちー

今のコロナ渦
時間があるようで違う意味で忙しくもあり…
❛あきらめる❜って意味を教えらました〜
今日からあきらめるってプラスに考えて過ごしたいと思います

  • 2020年11月26日 09:08
  • まあみい

あれもしなければ、これもと考えて仕事が大変な時に目にとまりました。いろんな考え方が参考になりました。

  • 2020年11月25日 11:42
  • ころまま

固執しない、クヨクヨしない、柔軟に、人間万事塞翁が馬。ですね。

  • 2020年11月24日 15:55
  • ごっち

欠点を長所と捉えて上手く利用出来たら素晴らしいですね!
なかなか難しいですけど(^^)/

  • 2020年11月24日 12:16
  • オリーブ油

発想の転換
と言うことでしょうか?

大事ですね
なかなかできませんけど(^-^;

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